脱FAX

📋 この用語の要点(林 拓海の視点)

取材の現場で「ペーパーレスDXを始めたい」と相談を受けると、最初に出てくるのがFAXの話です。脱FAXは技術の問題ではなく、取引先との「慣習」をどう変えるかの問題だと私は考えています。この記事では、FAXの置き換え先になる電子手段を整理し、相手に応じた現実的な移行ステップを具体的に示します。「全部いきなりやめる」ではなく「減らせるところから減らす」という進め方が続くコツです。読み終えたとき、自社で何から手を付けるかが見えるはずです。

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目次

脱FAXとは何か

脱FAX(だつファックス)とは、業務で使っているFAXでのやり取りを、メールや電子契約といった電子的な手段へ置き換えていく取り組みのことです。紙を減らすペーパーレスの一環として語られることが多く、中小企業がペーパーレスDXを始めるときの「最初の一歩」になりやすいテーマです。

脱FAXの定義

脱FAXは「FAX機を捨てること」そのものを指す言葉ではありません。注文・見積・請求・確認連絡といった業務のやり取りを、FAX以外の電子手段に移し替える活動全体を指します。つまり目的は「FAXをなくすこと」ではなく、「紙とアナログ回線に縛られた業務の型を変えること」にあります。

結果としてFAX機の利用が減り、最終的に廃止できる状態を目指しますが、そこに至る過程がこの取り組みの本体です。いきなりゼロにするのではなく、置き換えられる業務から順に移していくのが現実的な進め方になります。

なぜ今「脱FAX」なのか

脱FAXが注目される背景には、いくつかの実務的な理由があります。第一に、テレワークとの相性の悪さです。FAXは基本的にオフィスの機械の前に人がいることを前提としており、在宅勤務では受信の確認すらできません。

第二に、手入力による転記ミスです。届いたFAXを見ながら基幹システムへ数字を手打ちする作業は、そのまま発注ミスや請求ミスの温床になります。桁を一つ読み違えるだけで、納品数量や請求金額が狂ってしまいます。第三に、紙・トナー・回線の維持コストです。1件あたりは小さくても、年間の枚数で見れば無視できない金額になり、印刷した紙の保管場所もかさみます。第四に、送信ミスによる情報漏えいのリスクです。番号を一桁押し間違えれば、取引情報が無関係な相手先へ届いてしまいます。こうした課題の解消が、業務効率化と安全性の両面から脱FAXを後押ししています。

FAXが残り続けた理由

一方で、FAXがなかなかなくならないのにも理由があります。相手が電話番号さえ知っていれば送れる手軽さ、送信記録が紙で残る安心感、そして「取引先がFAXしか受け付けない」という業界慣習です。特に製造・建設・卸・医療などの業界では、受発注の標準手段としてFAXが根強く残っています。

もう少し具体的に見ると、FAXならではの使われ方が残っている場面もあります。たとえば、図面や手書きの指示書に朱書きで追記し、そのまま送り返すやり取りは、電子手段へそっくり置き換えにくい典型です。担当者の世代や慣れの問題も大きく、長年FAXで回してきた現場ほど「今の手順で困っていない」という感覚が強く残ります。設備の面でも、複合機に電話回線をつないでおけば追加費用がほとんどかからないため、あえて見直す動機が生まれにくいという事情もあります。こうした「変えない理由」を一つずつ理解しておくと、後の交渉で相手の立場を踏まえた提案がしやすくなります。

ここが脱FAXの難しさです。自社の意思だけでは完結せず、取引先という「相手」がいる。だからこそ、技術の導入よりも、相手を巻き込む段取りのほうが重要になります。

FAXの置き換え先となる電子手段

脱FAXを進めるには、「FAXで送っていた内容を、何に置き換えるか」を決める必要があります。用途によって適切な手段は変わるため、一つの正解を探すよりも、業務ごとに使い分ける発想が向いています。

メール・PDF添付とクラウド共有

もっとも導入しやすいのが、メールにPDFを添付する方法です。見積書や注文書をPDF化して送れば、印刷も手入力も減らせます。追加投資がほとんど不要で、多くの取引先がすでにメールを使っているため、最初の置き換え先として現実的です。

運用を安定させるコツは、社内でルールを決めておくことです。ファイル名に日付と取引先名を入れる、件名に「注文書」などの書類種別を明記する、送信後に一言メールで受信確認を取る。こうした小さな約束事を決めておくと、FAX特有の「送ったのに届いていない」というトラブルを避けられます。届いたPDFはそのままフォルダに保存できるため、後から探し出す手間も減ります。

やり取りが頻繁な相手とは、クラウドストレージで共有フォルダを用意する方法もあります。ファイルを置くだけで相手が最新版を取りに来られるため、送り忘れや版の食い違いを防げます。

電子契約・ワークフローによる置き換え

押印や署名を伴う注文請書・契約書は、電子契約への置き換えが効果的です。合意の記録がシステムに残り、郵送やFAXの往復が不要になります。社内の承認を伴う申請は、ワークフローシステムに載せることで、回覧と承認がそのまま電子化されます。

受け取ったFAXやPDFの内容を自動で読み取りたい場合は、OCR(画像から文字を認識する技術)で紙の文字をデータ化し、RPA(パソコン操作を自動化するソフト)で基幹システムへ転記する組み合わせもあります。人手の転記そのものをなくせるため効果は大きいのですが、初期の設定には手間がかかります。これは移行がある程度進んだ後の効率化施策と位置づけ、最初から欲張らないほうが失敗しません。まずは「紙をデータに変える」ところまでを当面の目標にすると、無理なく続けられます。

クラウドFAX(インターネットFAX)

「相手がどうしてもFAXしか使えない」場合の折衷案が、クラウドFAX(インターネットFAX)です。受信したFAXがPDFになってメールやクラウドに届き、送信もパソコンやスマホから行えます。相手から見ればFAXのままなので、相手に変更を求めずに自社側だけ紙とFAX機を減らせるのが利点です。在宅勤務でも受信内容をすぐ確認でき、外出先から送信できる点も、テレワークを進める会社に向いています。

たとえば、日中は現場に出ていて事務所に戻れない担当者でも、届いたFAXがスマホに通知されれば、その場で内容を確認してすぐ折り返せます。受信のたびに紙が出ないため、機密性の高い書類が誰でも見える状態でトレイに放置される、といった心配も減ります。届いた書類はそのままフォルダに保存されるので、「あのFAXどこに行った」と探す時間もなくなります。

導入も比較的容易で、初期費用を抑えたサービスも多いため、スモールスタートに向いています。ただし、あくまでFAXという仕組みを電子化するものです。転記の自動化や契約の電子化といった、より本質的な業務改善には別途取り組む必要がある点は理解しておきましょう。

用途別の置き換え先を整理すると、次のようになります。

FAXの主な用途 置き換え先の候補 相手の変更負担
見積・注文書の送付 メール+PDF添付
頻繁なファイル共有 クラウドストレージ
押印を伴う契約・請書 電子契約サービス
社内の申請・回覧 ワークフローシステム 小(社内のみ)
相手がFAX固定 クラウドFAX なし

脱FAXの進め方(移行ステップ)

置き換え先が見えたら、次は移行の段取りです。ここを飛ばして機器やサービスから選ぶと、「導入したのにFAXが減らない」という結果になりがちです。順序が大切です。

ステップ1 現状の棚卸し

まず、自社が「誰と」「何を」「月に何件」FAXでやり取りしているかを洗い出します。記録するのは、送受信の日時、相手先、書類の種類、おおよその枚数で十分です。1週間ほど送受信を記録するだけでも、全体像はかなり見えてきます。ここで「思っていたよりメールで済ませられる相手が多い」と気づくことも珍しくありません。件数の多い相手と用途が、優先的に取り組むべき対象になります。逆に、月に数枚しか使わない相手なら、無理に変えず後回しにするという判断もできます。

ステップ2 相手別に方針を分ける

棚卸しの結果を、大きく3つに分類します。この仕分けが移行計画の骨格になります。

  1. すぐ移せる相手:すでにメールを使っており、PDF送付に切り替えるだけで済む先。
  2. 交渉すれば移せる相手:慣習でFAXを使っているが、依頼すれば電子手段に応じてくれる可能性がある先。
  3. 当面FAXが必要な相手:相手のシステムや方針で当面変えられない先。ここはクラウドFAXで自社側だけ効率化します。

ステップ3 小さく始めて広げる

いきなり全取引先へ通知するのではなく、まずは1と社内業務から着手します。社内の申請をワークフローに載せ、協力的な取引先とメール送付に切り替える。この段階で運用の型と社内マニュアルを固めてから、2の相手へ順番に案内していきます。取引先へは「移行のお願い」を一斉FAX・メールで告知し、切り替え希望日と連絡先を明記すると混乱を防げます。

ここで大切なのは、最初の1件を「成功例」として社内に見せることです。数字で減った紙の枚数や、短くなった処理時間を共有すると、社内の納得感が一気に高まります。反対に、全社一斉の号令だけで進めようとすると、現場は「今までどおりでいい」と元に戻りがちです。小さく始めて成果を見せ、その勢いで次の相手へ広げる。この順番が、脱FAXを途中で止めないための現実的な進め方です。

脱FAXは、紙を減らす小さな改善に見えて、実際には受発注の流れそのものを見直す入口になります。DXを大きく構えすぎず、身近なFAXから始めるのは理にかなった順番です。

脱FAXの注意点と選び方

最後に、実際に取り組む際につまずきやすい点と、サービス選びのポイントを整理します。

取引先が応じてくれないとき

もっとも多い壁が、取引先の非協力です。ここで無理強いすると関係が悪化します。相手にメリットを伝えること、相手の負担をゼロにする選択肢(クラウドFAX)を残すこと、そして期限を区切らず段階的に案内することが、現場で効く対応です。相手にとっては「今のやり方で困っていない」のが本音ですから、こちらの都合だけを押し付けても動いてくれません。まずは自社が受け取り側を電子化し、相手には「送り方は今のままで構いません」と伝えるだけでも、負担感はぐっと下がります。「相手を変える」より「変えやすい相手から変える」ほうが、結果的に早く進みます。

電子帳簿保存法との関係

見落としやすいのが、法令上の保存要件です。FAXで受け取っていた注文書や請求書をメール・PDFなどの電子データで受け取るようになると、それは電子取引に該当します。電子帳簿保存法により、電子で受け取った取引情報は電子のまま所定の要件で保存する必要があります。脱FAXを進めるときは、保存方法もあわせて整えておくことが欠かせません。詳細な要件は改正が入ることもあるため、最新の公式情報を確認してください。

クラウドFAXやサービスの選び方

クラウドFAXや電子契約サービスを選ぶ際は、月間送受信数に合った料金か、既存のFAX番号を引き継げるか、届いたデータの保存・検索がしやすいか、を確認します。加えて、複数人で受信内容を共有できるか、既存の会計ソフトや文書管理の仕組みと連携できるかも、後々の使い勝手を左右します。無料お試しがあるサービスなら、実際の書類で数日使ってみて、画質や操作感を確かめてから本契約に進むと失敗が減ります。

料金体系も、定額制と従量制のどちらが自社に合うかで見え方が変わります。送受信の件数が月ごとに大きく変わる会社は従量制、毎月ほぼ一定なら定額制のほうが費用を読みやすくなります。あわせて確認したいのが、送信に失敗したときの再送やエラー通知の分かりやすさ、受信データの保存期間、スマホアプリの操作感といった細かな点です。毎日触れる担当者にとっては、この使い勝手の差が定着するかどうかを大きく左右します。セキュリティ面では、通信が暗号化されているか、誰がいつ送受信したかの記録が残るかを確認しておくと安心です。選ぶ観点を最初に3つほどに絞り、その軸で2〜3サービスを並べて比べると、迷わず決めやすくなります。

導入費用が気になる場合は、条件を満たせばIT導入補助金などの支援制度を使える場合があります。制度の対象や公募内容は年度で変わるため、申請前に最新の公募要領・公式情報を確認してください。まずは小さく契約し、運用に慣れてから対象範囲を広げるのが安全です。脱FAXは一度で完成させるものではなく、業務を見ながら少しずつ整えていく取り組みだと捉えておきましょう。

よくある質問(FAQ)

脱FAXとペーパーレスは何が違うのですか?

ペーパーレスは紙全般を減らす広い取り組みで、脱FAXはそのうちFAXでのやり取りに絞った活動です。脱FAXは対象が明確で成果が見えやすいため、ペーパーレスDXの最初の一歩として選ばれることが多くなっています。まずFAXから始め、他の紙業務へ広げる流れが現実的です。

取引先がFAXしか使えません。それでも脱FAXできますか?

できます。クラウドFAX(インターネットFAX)を使えば、相手から見た手段はFAXのまま、自社側だけデータで送受信できます。相手に変更を求めずに紙とFAX機を減らせるため、非協力的な取引先が多い環境でも着手可能です。協力的な相手からメールへ移し、残りをクラウドFAXで受ける形が現実的です。

脱FAXの費用はどのくらいかかりますか?

メールとPDF添付から始めれば追加費用はほぼかかりません。クラウドFAXは月額数百円から数千円程度が目安で、送受信件数によって変わります。まず無料・低額の手段で置き換えられる範囲を広げ、必要な部分だけ有料サービスを足すと、投資を抑えながら進められます。

既存のFAX番号は残せますか?

多くのクラウドFAXサービスでは、既存の番号を引き継げる「番号ポータビリティ」に対応しています。ただし回線種別や地域によって可否や手続きが異なります。取引先へ周知した番号を変えずに済むかは重要な選定ポイントなので、契約前に対応可否と移行手順を必ず確認してください。

脱FAXで電子帳簿保存法の対応が必要になりますか?

注文書や請求書を電子データで受け取るようになると電子取引に該当し、電子帳簿保存法に沿った保存が必要になります。受け取ったデータを電子のまま、検索できる形で保存する体制を整えましょう。要件は改正されることがあるため、対応時は最新の公式情報を確認することをおすすめします。

何から手を付ければ失敗しませんか?

まず1週間ほどFAXの送受信を記録し、相手と用途を棚卸しします。次に社内業務と協力的な取引先から着手し、運用の型を固めてから他の相手へ広げます。いきなり全面廃止を宣言するより、減らせるところから減らす進め方のほうが、社内にも取引先にも無理がなく定着します。

✏️ 林 拓海より

現場を取材していて感じるのは、脱FAXでつまずく会社の多くが「機器やサービス選び」から入ってしまっていることです。ツールを入れても、相手がFAXで送ってくれば結局印刷して手入力に戻ってしまう。だから私はいつも「棚卸しが8割」とお伝えしています。誰と何をどれだけやり取りしているかが見えれば、どこから手を付けるべきかは自然に決まります。以前取材したある町工場では、高機能な複合機を入れたのに取引先が変わらず、半年たってもFAXの山は減っていませんでした。逆に、まず一週間だけ送受信を記録した会社は「実は半分の相手はメールでよかった」と気づき、そこから一気に紙が減っていきました。差を生んだのは道具の性能ではなく、着手の順番でした。そして大切なのは、完璧を目指さないことです。全取引先を一気に動かそうとすると必ず止まります。社内と協力的な相手から静かに始め、成功例を一つ作る。その一つが社内の説得材料になり、次の一歩を軽くしてくれます。FAXは長く現場を支えてきた道具です。否定するのではなく、役目を終えた業務から順に引退させていく。そんな向き合い方のほうが、結果的に早く、そして続く脱FAXになると私は考えています。まずは来週、1週間の送受信メモから始めてみてください。

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この記事を書いた人

B2B メディアで取材・執筆に4年従事し、製造業・教育機関・医療機関・自治体など業種の異なる現場で、デジタルブックやペーパーレス化の活用事例を取材してきました。カタログの電子化、社内マニュアルのデジタル配布、学校の教材配信、院内文書の管理——同じ「紙をデジタルに」という言葉でも、業種が変われば課題も成功の条件もまったく異なります。その差分を現場の担当者の言葉から引き出して記事にすることが私の仕事です。

取材で大切にしているのは、導入の成功談だけを並べないことです。実際の現場では運用に乗るまでに必ず試行錯誤があります。誰が更新を担うのか、紙を残す業務をどう線引きするのか、現場のITリテラシーにどう合わせるのか。担当者が本音で語ってくれた「うまくいかなかった段階」にこそ、これから移行する企業にとって価値のある情報があると考えています。インタビューでは表面的な感想ではなく、判断の背景と意思決定の順序まで踏み込んで聞くことを心がけています。

デジタルブックPDF メディアでは取材ライターとして導入事例・現場インタビュー・運用フローの記事を担当しています。執筆では専門用語をかみ砕き、自社の状況に置き換えて読めるよう、業種・規模・体制といった前提条件を必ず明示します。事例を「すごい成功例」として消費させるのではなく、「自社なら何から始められるか」を読者が具体的にイメージできることをゴールに据えています。紙からデジタルへの移行はツールよりも人と業務の問題であることがほとんどです。現場のリアルな声を丁寧に拾い、移行段階でつまずく実務的な課題を整理して届けること。それが取材ライターとしての私の役割です。

取材を重ねるほど実感するのは、移行に成功した現場ほど特別な技術ではなく、地道な合意形成と小さな成功体験の積み重ねを大切にしているという事実です。だからこそ私の記事では、華やかな導入効果だけでなく、誰がどの順番で何に取り組んだのかという過程を丁寧に描くようにしています。読者が「これなら自分の職場でも再現できそうだ」と感じ、最初の一歩を踏み出すきっかけになること。現場の声を預かるライターとして、その手応えを届け続けることを何よりの役割だと考えています。

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