📋 この記事でわかること
電子署名の「当事者型」と「立会人型(事業者署名型・クラウド型)」を、契約の重要度に応じて使い分けるための判断基準を、実務担当者の目線で整理します。2方式の仕組みの違いをおさえたうえで、方式選びで見るべき「本人確認レベル・コスト・証拠力・相手都合」の4つの判断軸を解説。さらに、契約を3段階の重要度に分けて推奨方式を示す意思決定表と、契約類型別の使い分け早見表を用意しました。立会人型の証拠力を補強する具体策や、取引先の負担を抑えた導入の進め方、よくある誤解までカバーします。「この契約はどちらの方式で締結すべきか」を、その場で判断できるようになることをめざした内容です。なお法制度の細部は改正で変わりうるため、重要な契約の最終判断では最新の公式情報や専門家への確認を添えてください。
📖 この記事は約17分で読めます。
「電子契約を導入したいが、当事者型と立会人型のどちらを選べばいいのか分からない」——契約実務や総務のご担当者から、いちばん多く寄せられる悩みがこれです。ツールを比べる前に、まず自社が結ぶ契約に「どちらの方式が向いているか」を判断できないと、選定は前に進みません。
電子署名には大きく2つの方式があり、それぞれ本人確認の強さやコスト、相手の使いやすさが異なります。大切なのは「どちらが優れているか」ではなく、「この契約の重要度に、どちらが釣り合うか」という発想です。この記事では、電子契約を導入する現場が、契約ごとに方式を選び分けられるようになるための判断基準を、意思決定表と早見表を使って具体的に解説します。
電子署名の当事者型・立会人型とは?2方式の違いをまず押さえる
方式を選ぶ前に、そもそも2つの型が「誰の名義で・どうやって」署名するのかを整理します。ここを取り違えると、後の判断軸の話がすべてぶれてしまいます。まずは仕組みの違いを、専門用語をかみくだいて確認しましょう。
当事者型(本人型)の仕組み
当事者型は、契約を結ぶ当事者本人が、自分名義の電子証明書を使って署名する方式です。あらかじめ認証局(本人確認をして電子証明書を発行する機関)による本人確認を受け、発行された証明書で「確かに本人が署名した」ことを示します。印鑑にたとえるなら、実印と印鑑証明書をセットで使うイメージに近い方式です。
本人性の裏づけが強い一方で、署名する双方がそれぞれ電子証明書を用意しておく必要があります。準備の手間とコストがかかり、相手にも同じ用意を求めることになるため、導入のハードルはやや高めです。
立会人型(事業者署名型・クラウド型)の仕組み
立会人型は、電子契約サービスを提供する事業者が、利用者の指示にもとづいてサービス名義で署名する方式です。契約当事者は、届いたメールのリンクを開いて「同意」ボタンを押すだけで締結が完了します。本人確認は、主にメール認証(本人しか受け取れないメールアドレスへの送信)で行い、必要に応じてSMS認証などを追加します。事業者署名型・クラウド型とも呼ばれます。
相手は特別な準備なしにブラウザだけで署名でき、コストも抑えられるのが最大の利点です。近年の電子契約サービスの多くはこの方式を採用しており、大量・定型の契約と相性がよい方式です。
法的効力の位置づけ(基礎は関連記事で確認を)
「立会人型は本人が署名していないから、法的に弱いのでは」と心配される方が多くいます。この点は、電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)の理解が前提になります。2020年には総務省・法務省・経済産業省が連名で見解を示し、一定の要件を満たす立会人型も電子署名法上の電子署名に当たりうるとの考え方が整理されました。
本記事は「どちらの方式を選ぶか」という実務判断に焦点をあてます。法的効力の基礎そのものは、電子契約と電子署名の法的効力の記事で詳しく解説しています。電子契約の導入手順から知りたい方は、電子契約の基礎と導入の進め方もあわせてご覧ください。制度の細部は改正で変わりうるため、重要な契約の判断では最新の公式情報や専門家の確認を添えるのが安全です。
方式選びの4つの判断軸|本人確認・コスト・証拠力・相手都合
2方式の仕組みが分かったら、次は「何を基準に選ぶか」です。方式選びで見るべき軸は、大きく4つに整理できます。この4軸で2方式を並べて眺めると、どちらが自社の契約に合うかが見えてきます。
本人確認レベル(なりすまし耐性)
1つめの軸は、署名した人が「本当に本人か」をどこまで厳密に確かめられるか、という本人確認の強さです。当事者型は認証局の本人確認を経た電子証明書を使うため、なりすまし耐性が高い方式です。立会人型はメール認証が基本のため相対的に緩やかですが、SMS認証や、オンラインで本人確認を行うeKYCを組み合わせれば、本人確認のレベルを引き上げられます。
コスト(導入・運用)
2つめは費用です。当事者型は電子証明書の取得・更新に費用と手間がかかり、相手にも同様の負担が生じます。立会人型は多くが送信件数や月額での課金となり、1件あたりのコストを低く抑えやすい方式です。締結件数が多いほど、この差は大きく効いてきます。
たとえば、毎月数十件の発注請書を取り交わす卸売業を想定してみましょう。この量に当事者型で全件対応を求めると、相手先ごとの証明書準備が壁になります。立会人型であれば、1件あたりの手間と費用を抑えつつ、締結までの日数も短縮しやすくなります。件数が読める定型契約ほど、コスト軸が方式選びの決め手になりやすいのです。
コスト差を具体的にイメージするために、ごく簡単な試算をしてみましょう。仮に月100件の契約を締結する場合、当事者型では双方が電子証明書を用意する前提となり、証明書の取得・更新費用と発行までの待ち時間が取引先の数だけ積み上がります。一方、立会人型は送信件数や月額で費用が決まる料金体系が中心のため、件数が増えても1件あたりの単価は緩やかにしか動きません。あくまで概算にすぎませんが、締結件数が多い定型契約ほど、方式の違いが年間コストの差として表れやすいと押さえておくとよいでしょう。実際の金額はサービスや契約内容で大きく変わるため、見積もりは複数社を比べて確認してください。
証拠力(裁判での立証力)
3つめは、万一トラブルになったときに「確かに合意した」と示せる力、すなわち証拠力です。当事者型は本人性の裏づけが強く、証拠力の面で有利とされます。立会人型でも、タイムスタンプによる改ざん検知や、署名時刻・IPアドレス・操作履歴などの監査ログを残すことで、証跡を積み上げられます。証拠力は方式だけで決まるのではなく、付随する記録の充実度でも変わる、と捉えるのが実務的です。
ここで大切なのは、証拠力を「署名の瞬間」だけで考えないことです。実際の紛争では、締結に至るまでのやり取りや、締結後にデータが保管されてきた経緯も問われます。誰が同意ボタンを押したのか、その記録が改ざんされていないかを一連の流れとして示せる状態こそが、本当の意味での証拠力につながります。方式の選択と、記録を残す運用は、必ずセットで設計しましょう。
相手都合(取引先の準備負担)
4つめが、見落とされがちな相手都合です。どれほど厳格な方式でも、取引先が対応できなければ契約は締結できません。当事者型は相手にも電子証明書の用意を求めるため、相手の準備負担が大きくなります。立会人型は相手がメールとブラウザだけで完結できるため、幅広い取引先とスムーズに結べます。相手の数が多い契約ほど、この軸の重みは増します。
| 判断軸 | 当事者型(本人型) | 立会人型(事業者署名型) |
|---|---|---|
| 本人確認レベル | 高い(認証局の証明書) | 標準(認証強化で向上) |
| コスト | やや高い(証明書が必要) | 抑えやすい |
| 証拠力 | 高い | 中〜高(記録で補強可) |
| 相手の準備負担 | 大きい(相手も証明書要) | 小さい(メールで完結) |
| 締結スピード | 準備に時間がかかる | 速い |
この表から分かるのは、当事者型は「厳格さ」、立会人型は「手軽さと速さ」に強みがあるということです。両者はどちらかが上位互換なのではなく、契約の性格に応じて選び分ける対象だと理解してください。
契約の重要度で使い分ける判断基準【意思決定表】
4つの軸を踏まえると、方式選びは「契約の重要度」を軸に整理すると迷いにくくなります。重要度が高い契約ほど本人確認と証拠力を優先し、定型で件数の多い契約ほどコストと相手都合を優先する、という考え方です。ここでは3段階に分けて整理します。
契約を重要度で3段階に分ける
まず、自社が結ぶ契約を、次の3段階に仕分けします。判断のものさしは「もし紛争になったら、金額・影響がどれだけ大きいか」「なりすましや否認のリスクがどれだけ怖いか」です。
- 高重要度:金額が大きい、権利関係が重い、否認されると影響が甚大な契約(不動産売買、金銭の貸し借り、重要な基本契約など)
- 中重要度:事業上は重要だが、定型性がありリスクが限定的な契約(一般的な業務委託、秘密保持契約など)
- 低重要度:定型・大量に発生し、1件あたりのリスクが小さい契約(注文書、発注請書、申込書など)
この仕分けは、法務の視点だけでなく、実際の締結件数や相手の顔ぶれも加味して決めるのがコツです。件数が多い契約を厳格な方式にすると、現場が回らなくなるためです。
重要度別の推奨方式(意思決定表)
3段階の重要度に、推奨する方式と理由を対応づけたのが次の意思決定表です。あくまで出発点となる目安であり、自社のリスク許容度に応じて調整してください。
| 契約の重要度 | 推奨方式 | 重視する軸 |
|---|---|---|
| 高重要度 | 当事者型(または立会人型+厳格な認証) | 本人確認・証拠力 |
| 中重要度 | 立会人型+SMS認証などの補強 | バランス重視 |
| 低重要度 | 立会人型(メール認証) | コスト・相手都合・スピード |
注目したいのは、高重要度でも「立会人型+厳格な認証」が選択肢に入る点です。相手が当事者型に対応できない場合でも、本人確認を強化し証跡をしっかり残せば、実務上は立会人型で対応できる場面が少なくありません。方式は二者択一ではなく、補強策とセットで考えるものだと押さえておきましょう。
判断に迷ったときの手順
個別の契約でどちらにするか迷ったら、次の順で問いを立てると整理できます。上から順に当てはめるだけで、おおよその方向が定まります。
- この契約は、否認されたときの影響が大きいか(大きければ当事者型を軸に検討)
- 相手は当事者型に対応できるか(難しければ立会人型+認証強化へ)
- 同種の契約が大量に発生するか(多ければコスト・スピードを優先し立会人型へ)
- 社内規程や取引先の要請で、方式が指定されていないか(あれば最優先で従う)
この4問は、担当者が変わっても同じ判断ができるよう、社内マニュアルに落とし込んでおくと運用が安定します。
契約類型別・当事者型と立会人型の使い分け早見表
重要度の考え方を、より具体的な契約類型に当てはめてみましょう。実際の契約名で示すと、現場の判断がぐっと速くなります。あくまで一般的な目安であり、金額や取引先によって上下する点にご注意ください。
高重要度の契約(不動産・金銭消費貸借など)
否認や改ざんが起きたときの影響が大きい契約は、本人確認と証拠力を最優先にします。次のような契約が該当します。
- 不動産の売買契約・賃貸借契約(金額が大きく、権利関係が重い)
- 金銭消費貸借契約(貸し借りの否認リスクが致命的になりやすい)
- M&A・事業譲渡に関する契約、重要な業務提携の基本契約
これらは当事者型を軸に検討し、相手が対応できない場合は立会人型に厳格な本人確認とタイムスタンプを組み合わせて補います。あわせて、締結後の契約書を確実に管理する体制も欠かせません。
中重要度の契約(業務委託・秘密保持など)
事業上は重要でも、定型性があり金額・リスクが限定的な契約は、バランス型の選択が向きます。次のような契約です。
- 一般的な業務委託契約・請負契約
- 秘密保持契約(NDA)
- 継続的な取引の基本契約(金額が中規模のもの)
これらは立会人型を基本にしつつ、SMS認証など本人確認をひと段階強めると安心です。相手が幅広く、締結頻度もそれなりにあるため、手軽さと確実さのバランスを取ることが実務のポイントになります。
低重要度・大量定型の契約(注文書・発注請書など)
1件あたりのリスクが小さく、大量に発生する契約は、コストと相手都合、スピードを優先します。次のような書面です。
- 注文書・発注請書・申込書
- 定型の同意書・確認書
- 少額で反復的な取引の契約
これらは立会人型のメール認証で十分に運用できる場面が多く、締結のスピードとコスト効率が価値を生みます。ここに厳格な当事者型を持ち込むと、相手の負担が増えて締結が滞り、かえって業務が非効率になりがちです。脱ハンコを進める入り口としても、この領域から着手すると成果が見えやすくなります。
| 契約類型 | 目安の方式 | 補強策の例 |
|---|---|---|
| 不動産・金銭消費貸借 | 当事者型が基本 | タイムスタンプ・厳格な本人確認 |
| 業務委託・NDA | 立会人型+認証強化 | SMS認証・監査ログ保存 |
| 注文書・発注請書 | 立会人型(メール認証) | 送信ログの保管 |
なお、業種によって重心の置きどころは変わります。たとえば不動産や金融のように高額・重要な契約が中心の業種は当事者型寄りに、小売や卸売のように定型・大量の契約が日々発生する業種は立会人型寄りに設計すると、現場の実態に合いやすくなります。とはいえ同じ業種でも契約の中身はさまざまですから、業種の傾向はあくまで出発点として押さえ、最後は個々の契約の重要度で判断するのが安全です。
立会人型の証拠力を補強する実務ポイント
立会人型を選ぶ場合、「証拠力が心配」という声にどう答えるかが導入のカギになります。実は、いくつかの補強策を重ねることで、証拠力は大きく高められます。ここでは現場で使える3つの実務ポイントを紹介します。
本人確認を強化する(多要素・eKYC)
メール認証だけでは不安な契約には、本人確認の要素を足します。具体的には、SMS認証(携帯番号への確認コード送信)を加える、アクセスできる担当者を限定する、重要な契約ではeKYCで公的書類による本人確認を行う、といった方法です。要素を重ねるほど、なりすましの余地は小さくなります。
タイムスタンプ・長期署名で改ざん耐性を高める
「いつ署名されたか」「その後に改ざんされていないか」を示すのが、タイムスタンプと長期署名(PAdES)です。タイムスタンプは締結時点の存在を証明し、長期署名は証明書の有効期限を越えても長期にわたり検証できる状態を保ちます。これらは、後から「その書面は本物か」を問われたときの真実性の確保に直結します。保存年限の長い契約ほど、長期署名の価値が高まります。
契約管理・監査ログで証跡を残す
署名そのものに加えて、締結までの記録を残すことが証拠力を底上げします。署名者のメールアドレス、署名日時、IPアドレス、操作の履歴といった監査ログを保存し、締結済みの契約書を一元管理しておきます。誰が・いつ・どの端末から同意したのかを一連の記録として示せれば、立会人型でも「合意の事実」を説得力をもって立証できます。法人の代表印に相当するeシールの活用も、組織としての発行元を示す手段として検討に値します。
運用に落とし込むときは、次の手順を社内で固定しておくと証跡が安定します。まず、契約ごとに「どのログを・どこに・何年残すか」を保存ルールとして決めます。次に、締結が完了した時点で、タイムスタンプ付きの契約書と監査ログが自動的に保管先へ集約される流れを整えます。最後に、四半期に一度など定期的に、ログが欠けていないか・改ざん検知が有効に働いているかを点検します。属人的な手作業に頼らず、仕組みで証跡が残るようにしておくことが、いざというときの立証力を大きく左右します。
電子帳簿保存法との整合も意識する
証拠力の話は、締結後の「保存」の話と地続きです。電子契約で取り交わした契約書は、税務との関係では電子帳簿保存法上の電子取引データとして扱われ、一定の保存要件(改ざん防止措置や、日付・金額・取引先での検索性の確保など)を満たす形で残すことが求められます。どの方式で締結するかと、締結後にどう保存するかは、本来ひとつづきの設計です。立会人型を選ぶ場合でも、タイムスタンプの付与や監査ログの保存は、証拠力の補強と保存要件の充足を同時に助けてくれます。方式を選ぶ段階で「締結したデータを法令に沿ってどう保管するか」まで見通しておくと、後戻りの少ない導入になります。
相手都合を踏まえた導入の進め方
方式が決まっても、相手が動いてくれなければ契約は結べません。電子契約は「相手あってのもの」です。取引先の負担を抑えながら導入を進める観点を、実務目線で整理します。
取引先の負担を最小化する
相手にとって、はじめての電子契約は不安がつきものです。次のような配慮があると、締結がスムーズに進みます。
- 相手には費用や事前登録が不要な立会人型を、まず提案する
- 署名手順を1枚にまとめた案内を、締結依頼と一緒に送る
- 問い合わせ窓口を明示し、相手が迷ったときにすぐ聞ける状態にする
「相手に負担をかけない方式を選ぶ」こと自体が、締結率を上げる立派な戦略です。厳格さと手軽さのバランスは、自社の都合だけでなく、相手の目線でも点検しましょう。
併用という現実的な選択肢
多くの企業にとって現実的なのは、方式をひとつに決めきらず、契約の重要度で使い分ける「併用」です。高重要度の契約は当事者型、日常的で定型の契約は立会人型、というように振り分ければ、厳格さとコスト効率を両立できます。1つのサービスで両方式に対応できる場合も多いため、ツール選定の段階で「使い分けができるか」を確認しておくとよいでしょう。
導入前のチェックリスト
方式選びを具体的な導入に落とし込む前に、次の点を確認しておくと失敗を避けられます。
- 自社の契約を重要度で仕分けし、それぞれの推奨方式を決めたか
- 主要な取引先が対応できる方式かを、事前に確認したか
- 証拠力を補強する記録(タイムスタンプ・監査ログ)を残せる仕組みか
- 締結後の契約書を一元管理・検索できる体制があるか
- 社内規程に、方式の使い分けルールを明文化したか
このチェックを通すことで、「導入したものの現場が使いこなせない」という失敗を防げます。とりわけ、重要度の仕分けと社内規程への明文化は、後々の判断のぶれをなくす土台になります。
方式選びでよくある誤解と失敗パターン
最後に、方式選びでつまずきやすい典型的な誤解を取り上げます。これらを避けるだけで、選定の精度は大きく上がります。読者の方が同じ落とし穴にはまらないよう、正しい捉え方とあわせて解説します。
「立会人型は証拠力が弱いから使えない」という誤解
もっとも多い誤解が、立会人型を頭ごなしに「証拠力が弱い」と決めつけることです。前述のとおり、本人確認の強化やタイムスタンプ、監査ログの保存を重ねれば、立会人型でも十分な証跡を積み上げられます。方式の名前だけで優劣を決めず、補強策まで含めて評価するのが実務の作法です。むしろ、多くの日常契約では立会人型が最適解になります。
「当事者型なら万全」という思い込み
逆に、当事者型を選べば安心だと考えるのも危うい発想です。当事者型は厳格ですが、相手が対応できず締結が進まなければ、契約そのものが成立しません。厳格さを追い求めた結果、現場が紙の契約に逆戻りしてしまう例もあります。厳格さと締結のしやすさは、常に天秤にかけて考える必要があります。
コストだけで選んで運用が回らない
「とにかく安いから」と料金だけで方式やサービスを選ぶと、いざ重要な契約で本人確認が足りず、後から困る場合があります。逆に、すべてを最も厳格な方式にそろえて、運用負荷が重すぎて形骸化することもあります。大切なのは、契約の重要度に費用と手間を釣り合わせることです。安すぎず重すぎない、自社に合った落としどころを探しましょう。
よくある質問(FAQ)
当事者型と立会人型は、どちらの方が法的に強いのですか?
本人確認の厳格さでは当事者型が有利です。ただし「立会人型が法的に無効」というわけではありません。一定の要件を満たす立会人型も電子署名法上の電子署名に当たりうるとの考え方が整理されています。証拠力は方式だけでなく、本人確認の強化やタイムスタンプ、監査ログといった補強策の積み重ねでも高められます。詳しい法的効力は関連記事をご確認ください。
中小企業が最初に導入するなら、どちらの方式がよいですか?
多くの場合、立会人型から始めるのが現実的です。相手がメールとブラウザだけで署名でき、コストも抑えやすいため、注文書や業務委託など日常的な契約でスムーズに定着します。まずは低重要度の契約で運用に慣れ、必要に応じて重要契約向けに本人確認の強化や当事者型の併用を検討する、という順序がおすすめです。
立会人型でも重要な契約に使えますか?
補強策を重ねれば、重要な契約にも活用できる場面は多くあります。SMS認証やeKYCで本人確認を強化し、タイムスタンプや長期署名で改ざん耐性を高め、監査ログで締結の経緯を残すことで、証拠力を底上げできます。相手が当事者型に対応できない場合の有力な選択肢になります。ただし否認リスクが特に大きい契約では、当事者型の採用も検討しましょう。
1つのサービスで両方の方式を使い分けられますか?
両方式に対応するサービスも増えています。重要な契約は当事者型、定型の契約は立会人型、というように1つのツール内で使い分けられると、運用がシンプルになります。ツールを選ぶ段階で、両方式への対応可否と、契約ごとに方式を切り替えられるかを確認しておくと安心です。使い分けを想定するなら、選定時の重要な比較項目になります。
取引先が電子契約に不慣れな場合、どう進めればよいですか?
相手の負担が小さい立会人型を提案し、署名手順を1枚にまとめた案内を添えると進めやすくなります。事前登録や費用が不要である点を伝えると、相手の不安が和らぎます。問い合わせ窓口を明示し、迷ったときにすぐ聞ける状態にしておくことも大切です。相手目線で手続きを設計することが、締結率を高める近道になります。
契約の重要度は、誰がどう判断すればよいですか?
法務・総務の担当者を中心に、金額の大きさ、否認された場合の影響、締結件数を基準に仕分けるのが実務的です。判断がぶれないよう、重要度の区分と推奨方式を社内規程やマニュアルに明文化しておきましょう。判断に迷う契約や高額の重要契約では、顧問弁護士や専門家に確認したうえで方式を決めると安全です。
タイムスタンプは必ず付けた方がよいですか?
重要度の高い契約や、保存年限が長い契約では付けておくと安心です。締結の時点を客観的に示し、その後に改ざんされていないことの裏づけになります。日常的な低重要度の契約では必須とまでは言えませんが、サービスによっては標準で付与される場合もあります。自社が使う仕組みで、どこまでの証跡が自動的に残るかを確認しておきましょう。
✏️ 高橋 結衣より
電子契約の導入を支援していると、「当事者型と立会人型、どちらが正解ですか」と単刀直入に聞かれることがよくあります。気持ちはとても分かります。新しい仕組みを前にすると、つい「絶対に間違えない方式」を探したくなるものです。でも、正直にお伝えすると、この問いには「一つの正解」がありません。正しくは、「この契約には、どちらが釣り合うか」なのです。
私自身、ツール選定のつまずきをたくさん見てきましたが、失敗の多くは方式そのものではなく、「全部を一つの方式でそろえようとした」ことに起因していました。すべてを当事者型にして相手がついてこられず紙に逆戻りした会社もあれば、逆に、重要な契約まで最も手軽な設定のまま進めて後から不安になった会社もあります。どちらも、契約の重要度と方式を釣り合わせるという発想が抜けていたのだと思います。
実際、ある担当者の方からは「上司に『なぜ立会人型で大丈夫と言えるのか』と問われると、うまく答えられずに不安になる」と打ち明けられたことがあります。方式選びで迷いが生まれるのは、知識が足りないからではありません。多くは「間違えたら自分の責任になってしまう」という重圧から、つい一番厳格な方式へ逃げ込みたくなる——その心理が判断を曇らせているのです。契約の重要度という共通のものさしを先に決めておくことは、そうした担当者一人ひとりを守る盾にもなります。
だからこそ、この記事では「意思決定表」と「早見表」という形にこだわりました。頭の中だけで悩むと、担当者が変わるたびに判断がぶれてしまいます。契約を重要度で仕分けし、それぞれの推奨方式を紙に書き出して社内で共有する——たったこれだけで、現場の迷いは驚くほど減ります。方式選びは、法律の難しい議論に見えて、実は「自社の契約をどう仕分けるか」という、とても実務的な作業なのです。
そして最後に一つ。電子契約は、あくまで社内のペーパーレス化という大きな流れの一部です。契約書だけを電子化しても、周辺の資料が紙のままでは、業務全体はなかなか軽くなりません。まずは身近な資料から、デジタル化の手触りを試してみるのがおすすめです。当社では紙のパンフレットや資料をデジタルブック化する無料サンプルをご用意しています。契約の電子化と合わせて、まずは無料サンプルから、その一歩を踏み出してみてください。小さな一歩が、思っている以上に大きな効率化の入り口になります。
